ホテルからすぐの十字路の角にあるチャイ屋を、私とマキは気に入っていた。ガートからの帰り道、立ち寄ることにした。
店員はひとり。おじいちゃん、お父さん、お兄ちゃんの三人が交代で店を切り盛りしている。今日はお兄ちゃんだ。チャイをひとつづつ注文する。椅子とも言えない木の箱に腰掛けて、首にかけてあるタオルで汗を拭った。お兄ちゃんは客とよくおしゃべりをする。おじいちゃんもお父さんもあまりしゃべらない。
客はさまざまで、リキシャの運転手らしき筋肉の引き締まった青年や、シャツを着て英語の新聞を読んでいる紳士もいる。女性や観光客はいない。私たちはよそ者だ。お兄ちゃんは他の客には気さくな態度なのに、私たちにはいつもむっつりとした顔でチャイを手渡す。そのたびに私たちは肩を竦めて見せて、笑いかけた。どうしてだか、このお兄ちゃんをすごく気に入ったのだ。機敏な動きがいい。注文をいくつも同時に聞いて、さっとミルクを温める。ガスコンロに火をかけて、コップでミルクの量を計って鍋の中に入れる。缶の中から手の感覚で紅茶の葉を掴んでミルクの中に散らす。煮だったら、たっぷりの砂糖を落とした。チャイを作る間に、客からお金を受け取ったり、グラスを洗ったり忙しい。てきぱき� ��働くが、おじいちゃんやお父さんの洗礼された身のこなしにはまだかなわない。無駄な動きがあるようには見えないのだが、お兄ちゃんの真面目な働きぶりにはつい見惚れてしまう。
今日も硬い顔でチャイを手渡される。その次にクッキーが出てきた。私とマキは笑いかけるのも忘れて顔を見合わせた。
「チャイしか注文してないよね。これ、なんだろう。まさか、モーニングサービスなんて、あるわけないか」
私はマキに問いかける。
「まさか、ぼったくろうとしてるのかな」
マキも曇った顔で言う。時々、頼んでもいないのに無理やりチャイのお代わりをグラスに注いできたり、パンを売りつけようとするチャイ屋があるのだ。でも、まさか、と私も思った。ぼったくろうとしているのだろうか、と思い浮かび、このお兄ちゃんに限ってそんなことはしないと感じたのである。
お兄ちゃんは客の勘定を受け取っている。私たちが戸惑っていると近くの客がノーチャージだと教えてくれた。その客は店で時々会う顔見知りだった。驚いてお兄ちゃんを見ると、私たちと目が合った。白い歯を見せて、お兄ちゃんは笑った。はじめて私たちに笑いかけてくれた。マキも私もうれしくなって、甲高い声をあげてありがとうを言った。仲間と認めれらた気がして嬉しい。
次の日の朝、寝坊はしなかった。昨日と同じ場所に到着。朝日はまだ出ていない。ヒロさんや、昨日知り合った人たちに挨拶をして日が昇るのを待つ。
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